沖縄に移り住んで約30年
砂にぼんやり残る海の水を砂浜が吸い込み、また波が寄せる「渚」に立ちながら、揺れる波のように自由に行き来するような感覚。 気負うことなくTシャツのまま海に入り、そのまま日常に戻る――。そんな境界の曖昧な海辺の暮らしが、私の憧れてきた沖縄の姿だったことも、あらためて思い出しました。
初期にモノクロフィルムで撮影した写真には、大正・昭和初期生まれの、戦前・戦中・戦後を海で生き抜いた海人たちの姿が記録されています。
撮影を通して海人オジィたちと過ごした時間や、写真には映っていない人々との交流の中で、「昔の沖縄の海」を想像するための大切な体験をさせていただきました。
今は亡き、海人オジィたちの「海への思い」がどれほど深かったのか、その答えはわかりません。
けれども、その思いを受け継ぎ、「命の源である海の大切さ」を次世代へ伝えたい――。
その気持ちは、変わりゆく沖縄のなかで日々大きくなっています。
モノクロフィルムが危機的な状況に
フィルムの劣化に気づいたのは2年前のことでした。部屋中に酢酸のような酸っぱい臭いが立ち込め、フィルムを収めていた箱を開けてみると、一部のフィルムが丸まっていました。調べていくうちに、これが「ビネガーシンドローム」と呼ばれる現象だと判明しました。フィルムが高温多湿の密閉空間で保存されることで劣化し、一度進行すると完全には止められず、画像の修復も不可能になる恐ろしい現象です。
しかし、今となっては、あとの祭り。慌てて対策を講じましたが、状況を改善することはできませんでした。
貴重な写真を残す想定外の戦い
このままでは貴重な写真が消えてしまう・・・。そんな危機感に駆られ、沖縄県読谷村史編集室に相談したところ、補助金の活用を教えていただき、採択されました。事業の目的は、劣化したフィルムをデジタル化し、ウェブアーカイブとして保存すること、写真企画展を開催し、多くの方に、この状況を知っていただくことの2つ。しかし、スキャニング作業を依頼した企業から「想定外の劣化」と報告がありました。丸まってしまったフィルムにアイロンをかけ、出力できる状態にするには大変な労力がかかりました。
次世代に、永遠に残すデジタル化の意義
諸行無常――。すべてのものは移り変わり、生まれては消える運命を繰り返します。しかし写真はデジタル化することで、写り込んだ世界を百年先の次世代へ届けることが可能です。次世代に届ける写真アーカイブは、沖縄県読谷村「令和6年度ノーベル賞を夢見る村民基金」の助成金によって制作することができました。心から感謝申し上げます。
私は、この事業を通じて、海人オジィや、その家族から受け取ったものを未来の子どもたちに託すことを目指しています。
これらの写真は、沖縄の海の文化や暮らしを記録した、かけがえのない歴史的資料でもあります。しかし個人の力では限界があります。どうか、この状況を知っていただき、今後の活動のために、さらなるご支援、ご協力をお願いいたします。
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アーカイブに掲載の写真は、随時更新してまいります。写真説明が不十分な点も今後改良してまいります。また、掲載の写真については、海の大切さを伝える教育目的での使用に限り、無償でご利用いただけます。詳細は「お問合わせ」からメッセージをお送りください。
本サイトの写真の著作権は、すべて、海人写真家・古谷千佳子に帰属します。